今回はファイヤーアイテムの製作、メンテナンスにおいて欠かせない耐熱布の話題です。
いわゆる燃料を染み込ませて点火をする部分の素材についてです。
耐熱布には私たちは「ケブラーウイック」と呼んでいるアラミド繊維で編み込まれたベルト状の素材を使用します。一言で「ケブラーウイック」と言ってもサイズや種類も様々なタイプがあり、用途や組み合わせて使う燃料にも応じて使い分ける必要があります。スピニングのようにファイヤーアイテムをほぼ毎回の大道芸で使用しているとメンテナンスで交換頻度も相当な回数になります。
アラミド繊維の生産量はやはり中国が圧倒的に多く、しかも大量に消費する私たちにとっては安い(かなりの量を一度に購入すれば)ので、この数年のケブラーウィック調達はすべて中国から空輸で対応しています。これまで数社からいろんなタイプのケブラーウイックを購入しています。
ただし気を付けなければならないことがいくつかあって、サンプルを一度取寄せてみるなどの現物をチェックした上で発注をしないと編み方が荒く雑でほつれやすかったり、素材自体が弱く削れやすかったり、燃料との相性によっては高温化して溶けて(これについては後に理由が判明)しまったりと、粗悪なものも存在しているのでしっかりと吟味することが重要になってきます。
※上の画像で一番右側のケブラーウイック2mm厚が最近使用しているもので性能的に一番優秀です。右から2番目は同じ2mm厚で編み方は少し粗目ですがしっかりとしており丈夫さは十分です。右から3番目は暑さ3mmでソフトタイプ。丈夫さという意味ではこれまで使用した中では最悪でした。一番左は厚さ1mm(実際に1mmもない)ですが、これは購入したウイックではなく中国産のファイヤートーチに装着されていたもので、燃えはしませんでしたが、燃料の含む量と言い耐久性と言い論外です。
上の画像は2015年ごろから使っていた何タイプの中から違いがわかりやすいものを並べて撮影したものです。
この中で右から2番目のウイックで発生したことなのですが、燃焼時にある温度まで高温化するケースで、これまで見たことも無いようなウイックの欠損を見つけたことがあります。ウイックの表面が溶けてなくなってしまっているような状態でした。これは後に別のアラミド製造メーカーのエンジニアに画像を見せたところ衝撃的な答えが…。「これは100%ケブラーではありません。ポリエステル系の素材が混じっています」ということでした。実際にウイックだけをライターなどで燃やしてみても温度が低すぎるのか現象を再現することができず、今でも謎のままです。
まぁ単純に、この同じメーカーの製品を購入しなければ良いことだし、しばらく使っていて編み込み強度が弱く頻繁にメンテナンスしなければならないのも面倒だったので、オーダー先のメーカーを変更し、現在はかなり強度のある、しっかりと編み込まれたウイックにたどり着きました。
ここまでケブラーウイックに拘った理由は、ファイヤースタッフやファイヤーポイ、あるいはファイヤーソードのように殆ど手から離れない、いわゆる「投げモノ」ではないアイテムはドロップした時のウイックの損傷がないため気にする必要はないのですが、ジャグリングをしていれば時にはドロップミスは起きます。その時、編み方の弱いウイックや、素材自体が粗悪なケブラーの場合にコンクリートなど硬い地面に落下させると高熱状態のウイックは簡単にほつれたり、削れてしまったりと、ウイックの状態が一気に悪化してしまうことになるためです。スピニングの場合は2ヶ月で ↓ こうなります。
ちなみに巻き直しメンテナンスを行った直後はこのような状態。 ↑ と ↓ を比較してみるといかに「ほつれ」るのが恐ろしいか。
編み込まれているのが「ほつれ」ていくときにはベルト状の端の部分からなので編み込みの側面の強度も重要です。
↓ こちらはあまりよろしくない編み方。一箇所がほつれると連鎖的に解けてしまいます。
↓ こちらは良好な編み方で非常に丈夫です。見た目だけでも「こちらの方が良い」と理解できると思います。
3mm厚でソフトなタイプは素材的にも柔らかい分、燃料を染み込ませる量も多くなります。2mm厚でハードなタイプの方がウイック交換が大変ではありますが、燃料を染み込ませる量は少な目となります。どちらが良い、悪いということではなく、これは単純に演技時間の問題。例えば2mmであっても巻き付けるウイック量だけでも調整は可能です。
こうして使用するケブラーウイックが丈夫で耐久性があるものであれば2~3ヶ月に一度の巻き直しメンテナンスでOKなのですが、使用するケブラーウイックも安いものではなく、毎回100m単位で輸入するので輸送費や輸入税なども無視できず、ランニングコストも含めて「リーズナブルで、使いやすく、メンテナンスも楽に!」と考えて、より理想的なケブラーウイックを選択しているのです。
ちなみにふくやま大道芸に参加した時は、より安全性向上のためとウエイトバランスの微調整のためにステンレスワイヤーで追加固定をしています。また、エンディングのローラーバランス上でのパッシング用トーチはケブラーウイックは使用せず、別のもっと軽い素材を起用しています。
「大道芸じょんがら」でのメインパフォーマンスとなっているファイヤートーチのルーティン。2025仕様は完全なオリジナルでトーチの重さが全く異なる仕様になりました。大道芸現場では無風状態というのは極めて稀で、冬から春にかけては風が強い日が多く、対策として風に流されてスピン軌道に悪影響が出ないようにバランスを考えたウェイトにしています。今回話題にしているケブラーウィックもこのウエイトバランスを左右するパーツの一部だということも重要です。
ケブラーウイックの巻き付ける量や染み込ませる燃料の量によってもウエイトバランスに影響がでるので、スピニングで使用するトーチは恐らく他のパフォーマーがジャグリングをすると「え?重たい!」となるはず。
必要だからオリジナルで製作した!あるいは改造をした!パーツに拘った!というだけであり、「人と同じは嫌」とかいうのはどちらでも構わないし、気にしていないという本音であります。
要するに使い方とか、見せ方という点で、その技が強風の中でも成功率ができるだけ高くなるようにと完成させてきたオリジナルアイテム。今、ショーの演目の中で唯一市販品を使っているのはコンタクトジャグリングのクリスタルボールだけ。(笑)
現在、スピニングは次の新潟でのフェスティバルに向けて新たな試みも含め準備中です。自分たちも忘れないように覚書として、今回はケブラーウイックについてスピニングはこんなことを注意して選択しているという話題でした。
それではまた!!